表面波探査による擁壁の危険度評価手法
石積擁壁は、自然外力や老朽化によって崩壊することがあります。これまで、石積擁壁は、主に目視点検によって安定性が評価されてきており、目視できない擁壁内部の劣化や地山の緩みを確認できないことが課題となっていました。この課題に対応し、擁壁内部を評価する方法として、2013年国土技術政策総合研究所により擁壁の表面波探査法が考案されました(下図参照)。
http://www.nilim.go.jp/lab/ieg/tasedai/shiryou/110228_2_7.pdf
図 「
国土技術政策総合研究所:多世代利用型超長期住宅及び宅地の形成・管理技術の開発」引用
この表面波探査法は、これまで評価できなかった壁体内部と背後地盤の剛性(Vs)を測定することができる新技術です。なお、最終的な危険度は、上表に準拠し、S波速度によって危険度大、中、小で判定することとなっています。
石積接着工法
左写真:施工前 右写真:施工後
例えば,危険度「大」となる空石積擁壁は,石積接着工法によって改善することができます。表面波探査によって,石積接着工法施工前と施工後のS波速度を計測した結果は下図になります。この事例では,S波速度は約
1.5倍上昇しました。工事の発注者にとっては,このような補強効果を定量的に把握することは、投資価値を確認したり、リスク管理を行う上で非常に重要です。
石積接着工法施工前後のS波速度の違い(施工後S波速度が1.5倍上昇)
山地における微動アレイ探査
このような逆転層の挟在が想定される現場は、微動アレイ探査が適用できます。例えば、火山地帯のように、軟質な堆積物や硬質な溶岩が複雑に挟在しているところや地すべり地に有効です。
紹介する微動アレイ探査の事例は、平成 30年 4月大分県耶馬渓で大規模な斜面崩壊が発生した箇所です。対象地は大規模火砕流堆積物が分布します。崩壊後に、微動アレイ探査を行った結果を下図に示しました。この S波速度構造断面図は、微動アレイ探査を 3地点で行い、地球統計学的手法( Kriging法)によって Vsを等高線で表現したものです。 Vsが、尾根付近の 700m/sから深部にかけて 400m/sに低下しているのが特徴的です。屈折法では、このように深部にかけて軟らかくなる地盤は表現できません。今回は 2次元断面で表現しているが、 3次元的に探査地点を増やせば、 3次元モデルの作成も可能です。なお、この断面図の作成期間は、約 1週間程度(現地測定 2日、解析 3日、断面図作成 1日)でした。災害対策など、早急に地盤情報が必要な場合は、有効な地盤調査法であると考えられます。
平成
30年
4月、大分県耶馬渓崩壊斜面における微動アレイ探査を用いて作成した
S波速度構造断面図(
2018年
5月
12~
13日微動アレイ探査実施)
<参考文献>
微動アレイ探査と3次元モデリングシステムを用いた活断層探査
微動アレイ探査を面的に多数の地点で行い,その探査結果を3次元モデリングシステム(例えばEVS)に入力すれば,地下の地盤構造(S波速度)が3次元に表現することできます。3次元モデリングにしてしまえば,断層のような線構造が読み取ることができます。例えば,建設しようとしている計画地に断層があるのかを事前に調べることできます。なお,当社は,応用地質社製のMcSEIS-MT NEOという高精度でかつ大深度の探査を可能とした受振器を所有しています。
微動アレイ探査結果を3次元化することによって,活断層位置を特定した事例
<参考文献>
落葉による水路閉塞防止蓋
法面小段水路や集水桝が落葉で閉塞して、水が溢れて、局所的に法面を水が流れて崩壊する、という事例はとてもよくあることです。従来のメッシュの蓋をしても、結局その上に落葉が溜まって、水路に全く水が落ちないということになります。
NEXCOは、下図の統計を発表しています。崩壊原因の約半分は、排水構造物が関与しているということが読み取れるかと思います。排水構造物が閉塞していることが疑われます。
排水構造物が関与している崩壊の割合
高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会:第2回委員会資料引用
水路閉塞が原因となった法面崩壊事例
当社の水路蓋は、山形に折り曲げています。水路の山側で落葉を受け、表流水だけを谷側のメッシュから水路へ落とす仕組みになっています。これで、肝心の豪雨時に水路が閉塞するようなことはありません。晴天時に、落葉は風で吹き飛び、水路はまた元通りに回復しますので、メンテナンスフリーとなります。急傾斜地で水路の清掃が困難なところや、維持管理の手間を省きたいところにはオススメです。詳細は、当社へお問い合わせください。
<参考文献>